【概要】
変形性膝関節症(Knee Osteoarthritis:膝OA)※Osteoarthritis=変形性膝関節症
とは加齢、過負荷、肥満、遺伝などが影響して膝の機能が低下し、半月板の嚙み合わせの緩み・断裂、膝軟骨の摩耗・変形、炎症(関節液の過剰滞留)心因性、神経障害により、痛みや動きの制限を引き起こす疾患です。関節内の炎症や変性が関与し、末期には骨の変形も引き起こします。
ここで注意していただきたいのが「軟骨がすり減っているから、関節の隙間が狭くなり軟骨がぶつかって痛い」わけではないことです。初期~中期での痛みの原因は、関節包の炎症である滑膜炎か(滑膜炎の程度が疼痛の状態と関連するとされている)、関節外組織の痛みであることが主です。
【組織について】
軟骨には痛みの感覚神経は存在しません。痛みの神経は、関節軟骨と半月板中央部(辺縁部、前後節にはある)には存在せず、それ以外の全ての膝関節内・関節外組織に存在します。
〈関節内組織〉→軟骨、軟骨下骨、半月板、前十字靭帯・後十字靭帯、関節包(表層の線維膜、深層の滑膜)
〈関節外組織〉→滑液包、脂肪体、筋腱、靭帯、大腿筋膜張筋、鵞足
【発生機序】
膝の安定性・適合性に関与する、前十字靭帯(ACL)や半月板を過去に損傷している場合、関節変形を進行させやすいといわれています。(ACLに脆弱性があると膝の前後方向や回旋ストレスに対しての耐久性が下がり、半月板に損傷があると半月板が外周に逸脱し、軟骨にストレスが加わりやすくなるため)
〈初期~中期〉
膝OAの進行とともに、潤滑であった軟骨の表面がザラザラと毛羽立ちはじめ、軟骨自体が削り取られていくと、削り取られた軟骨の欠片・粉様不純物が滑膜を刺激して、炎症を引き起こします。
関節包内は関節液という液体で満たされていますが、炎症によって通常より黄色に混濁し粘性が上がり、過剰に貯留していきます。滑膜には神経があるので痛みを感じますし、関節液が貯留して水腫となり内圧が上がることで痛みや可動域制限を生じます。
また、半月板の圧迫・剪断ストレス、破片の挟み込み(ロッキング)のによる痛みもあり得ます。→再生医療、保存良好(薬、注射、リハビリ、物理療法)。(半月板によるロッキング繰り返す場合は半月の手術)
〈進行期~末期〉しかし、末期になると関節裂隙がほぼなくなり、骨どうしがぶつかり合うことで痛み生じます。
軟骨にはないですが、骨には再生能力があるためすり減って失われた骨を再生させようとしますが膝には常に体重がかかっているため、横にはみ出した状態で増殖していきす。増殖した骨を骨棘と呼びます。こうなると可動域がかなり制限され少しの動作でも激しい痛みを伴うようになるため、保存療法や環境設定でも対処できずつらい場合、(人工関節や骨切り術など)手術も検討になります。
【その他の膝痛の原因と発生機序】
しかし膝関節内に炎症や損傷、関節液貯留が起きていないのに、痛みがある場合があります。(膝痛のある方の関節内に痛み止めを打っても、全体の3割の方に変化がなかったとの研究結果あり)。
これは関節外組織の、脂肪体・滑液包、膝蓋靭帯や鵞足などの腱・筋組織、靭帯が主に原因となっています。
膝は本来、基本的に曲げ伸ばしの動きのみを担い、安定すべき関節です。しかし膝を挟んで存在している自由度の高い関節である、股関節や、地面と接地する足関節・足趾の機能低下(足関節や足趾の骨折・靭帯損傷の既往に注意)が起きると、膝の動きすぎ(頑張りすぎ)が起きると、膝周囲組織に負担がかかります。
そしてO脚、X脚ストレス、捻じりのストレス(外旋ストレス)が加わり、関節外組織に過負荷がかかって硬くなったり過度に伸ばされたりして、痛みを発します。また体重の65%以上を占める上半身の位置異常(腰部~胸郭)、体幹筋力の影響さえ受けます。そのため、姿勢や脚の使い方の悪さにより、運動しているお子様や、若年者でも痛みがある場合もあります。
特に多いのが脂肪体の痛みです。しかし実際には内側側副靭帯、鵞足、大腿筋膜張筋など複数併発していることが多いです。膝周囲組織の硬さや炎症、異常運動は後に膝関節内の炎症・変形の危険因子にもなり得るので早めに改善させる必要があります。膝内反変形のある方は、そうでない方と比べて動作時のO脚ストレス(knee adducution moment:KAM)が大きいことが分かっています。
【運動、筋トレにおける注意点】
レントゲン上、極初期の膝OAでも関節軟骨には既に異常がみられることが多い言われています。炎症がある膝の方でTVで膝に良いと紹介されていたからと言って、たくさん歩いたり、走ったり、スクワットしたり、階段で筋トレしたりすると逆効果なことが多いです。特に水腫が溜まっている場合は炎症が強いのでまず負担をかけないようにすることが先です。健常な若者でも連日、過剰に歩いて膝を酷使した後に中を見ると、軟骨表面の異常反応や関節内に炎症反応が見られると言われています。
水がたまると、神経の反射により大腿四頭筋(膝の筋肉)に力が入らないように指令がいくため萎縮が生じます。その状態で負荷をかけると膝折れや膝痛再発を誘発するので、水腫が落ち着いたら体重をかけない筋トレから開始していきましょう。関節外組織が問題の場合でも異常な動きによる膝の過使用が問題となっていることが多いため、その動きを改善しないまま、膝に体重をかけた状態での運動をするのは控えた方が良いことが多いです。まず硬くなっている組織を柔らかくして伸ばしてあげたら、そのままではまた戻ってまうので、弱っている筋肉を鍛えてということが必要になります。
【膝OA患者数と予防の重要性】
①高齢者が要支援になる原因の1位、要介護になる原因の4位が関節疾患であり、運動器の障害が高齢者の生活の質(quality of life: QOL)を著しく障害している。
②日本の変形性膝関節症(膝OA)患者数(40歳以上)を推定すると、X線像により診断される患者数は2,530万人(男性860万人、女性1670万人)となり、膝OAの有症状患者数は約800万人と推定される。
以上のことより、日本において膝OAの予防と進行防止は大切です。
参考文献:knee joint 膝関節理学療法マネジメント 機能障害の原因を探るための臨床思考を紐解く